ガタンという振動を体に感じる。 それを境に、薄い光が瞼の向こうから差し込んでくる。 蝉の鳴き声が聞こえる。その鳴き声は徐々に大きくなり、それに応じて少しずつ意識を取り戻していく。
上月ミエハはバスの車内にいる。他にも乗客は10名程度。
曲がり道が多く、バスは山道を走っているということがわかる。
ミエハは夢をみていたような気がして、額に手を当てる。
意識が朦朧としている
「あれ、ここはどこ?」 「帰り道? 昨日お祭りがあって、写真をたくさん撮った、ような気がするけど……」 「ん、眩しい」
窓の外から夕陽が差し込む。外を見ると、田畑が広がっていて、赤く染まった景色が、無性に綺麗だと思う。
「きれい」
ガタン、とバスが揺れる。 バスの中は賑わっている。楽しかった旅の帰り道、充足感に包まれていて幸せそのものだ。 しかし、その中に空席が一つだけあることに気づく。
「あれ……」
そう呟いたミエハの目からは涙が溢れていた。
「あれ……あれ……」
無性に悲しい。でも、何が悲しいのかは分からない。 誰かがいたような気がする。私たちの幸福を願ってくれた誰か。 それはもうシルエットだけになってしまい、じきに記憶からも消えてしまうだろう。
「……うっ、うっ」
ミエハは泣く。 その涙はバスの速度に置き去りにされ、赤色に染まった風景の中に溶けて消えていく。